DXを推進していくなかで、自社のDXがどの程度進んでいるのか不安に感じたことはないでしょうか。経済産業省が公表している「DX推進指標」を使えば、DX推進の進捗状況を客観的に評価できます。DX推進のKPIとして利用し、DXをより効率的に進めることも可能です。
ここでは、DX推進指標を利用したDXの推進とKPI設定、そのメリットや注意点について説明します。
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DX推進指標とは?
DX推進指標は経済産業省が作成した指標で、自社のDX進行度の自己診断に利用できるツールです。
DX推進指標を使って自社のDXがどの段階にあるのか、次に取り組むべき項目は何かを知ることができます。現状とこれからやるべきことが明確になり、DX推進が加速する効果も見込めるでしょう。
DX推進指標の概要
DX推進指標は、下記の図にあるように「DX推進のための経営のあり方、仕組み」に関する指標と「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」に関する指標の大きくふたつのカテゴリーに分けられます。それぞれのカテゴリーで「定性指標」と「定量指標」が設定されています。
定性指標は、両カテゴリーを合わせてキークエスチョン9項目とサブクエスチョン26項目の合計35項目が用意されています。これら2種類の質問は、回答すべきポジションについて下記のように想定されています。
- キークエスチョン: 経営者が自ら回答することが望ましいもの
- サブクエスチョン: 経営者が経営幹部、事業部門、DX 部門、IT 部門等と議論をしながら回答するもの
キークエスチョン9項目は以下のとおりです。
- データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか、社内外でそのビジョンを共有できているか。
- 将来におけるディスラプションに対する危機感と、なぜビジョンの実現が必要かについて、社内外で共有できているか。
- ビジョンの実現に向けて、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するために、組織整備、人材・予算の配分、プロジェクト管理や人事評価の見直しなどの仕組みが、経営のリーダーシップの下、明確化され、実践されているか。
- 挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか。
- DX推進がミッションとなっている部署や人員と、その役割が明確になっているか。また、必要な権限は与えられているか。
- DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取組が行われているか。
- DXを通じた顧客視点での価値創出に向け、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革に対して、(現場の抵抗を抑えつつ、)経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。
- ビジョンの実現(価値の創出)のためには、既存の IT システムにどのような見直しが必要であるかを認識し、対応策が講じられているか。
- ビジョンの実現に向けて、IT 投資において、技術的負債を低減しつつ、価値の創出につながる領域へ資金・人材を重点配分できているか。(「技術的負債」: 短期的な観点でシステムを開発し、結果として、長期的に保守費や運用 費が高騰している状態のこと)
引用元:「DX推進指標」とそのガイダンス(PDF)|経済産業省
サブクエスチョン26項目についてはここでの紹介は省きますが、例えば6に関連するサブクエスチョンには「事業部門において、顧客や市場、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DX の実行を担う人材の育成・確保に向けた取組が行われているか」「デジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保に向けた取組が行われているか」といったものがあります。
キークエスチョンに比べてより具体的で、次に取り組むべきことがイメージしやすくなっています。 各項目につき、DX推進の成熟度を下図のレベル0からレベル5の6段階で評価 します。評価することにより現状と次に目指すべき段階が見えてきます。
定量指標については、各企業がDX によって実現を目指すものに合わせて目標数値を設定することになります。詳細は「『DX推進指標』とそのガイダンス」や、「DX推進指標(サマリー)」をご参照ください。
なお、DXに関する公的な指標としては、経済産業省の「DX認定制度」もよく利用されています。DX認定制度については、「DX認定制度とは?制度の概要や申請の流れ、認定基準を解説」をご覧ください。
DX推進指標はDX推進のKPIとなるか
KPIとは“Key Performance Indicator”の略称で、日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。企業が設定した目標への達成度合いを数値化したもので、これにより現状と課題が把握でき、必要に応じて軌道修正ができます。企業が目標を達成するうえで非常に重要な指標です。
先に紹介したキークエスチョンに「4 挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPIを設定できているか」というサブクエスチョンがあります。このことから、DX推進においてもKPI設定が重要であることがわかります。KPIを設定することで、自社のDXの進捗状況と課題を把握・共有し、戦略的に推進していくことが可能です。
一方、経済産業省はDX推進指標について、「多くの日本企業が直面している DX を巡る課題を指標項目とし、 上記関係者が議論をしながら自社の現状や課題、とるべきアクションについての認識を共有し、関係者がベクトルを合わせてアクションにつなげていくことを後押しすべく、気づきの機会を提供するためのツール」としています。
DX推進指標は、まさにDX推進のKPIに適しているといえます。
引用元:「DX推進指標」とそのガイダンス(PDF)|経済産業省
なお、引用した文章にある「上記関係者」は、「経営幹部、事業部門、DX 部門、IT 部門などの関係者」を指します。
DX推進指標を利用してKPIを設定する際のポイント
DX推進指標を利用してKPIを設定するには、次のような点を意識するとよいでしょう。
- 自社のビジネスモデルや環境に合わせてカスタマイズする
DX推進指標は標準的な例です。自社のビジネスモデルや環境に合わせてカスタマイズして使いましょう。自社に合わせることでKPIの目標設定や評価がしやすくなり、正確な現状把握につながります。 - 全従業員が納得できる目標を設定する 目標はできるだけ明確な数値目標にします。下記の回答フォーマットでわかるとおり、 DX推進指標は定量指標、定性指標のどちらも数値で評価しやすいツールになっています。
従業員のモチベーションを維持して目標を達成するためにも、現状をしっかり分析して全員で共有し、目標設定の妥当性を納得してもらうことも重要です。
<回答フォーマット例>
「DX推進指標 自己診断結果入力サイト|IPA(情報処理推進機構)」の「DX推進指標自己診断フォーマットver2.3」(Excelファイルがダウンロードされます)
DX推進指標をKPIとして活用しDXを進める方法
DX推進指標を活用してDXを推進するには、次のようなポイントを押さえる必要があります。
- DX推進指標を理解し、DX推進の流れを把握する
まずは「デジタルガバナンス・コード2.0」と前出の「『DX推進指標』とそのガイダンス」をしっかり理解します。デジタルガバナンス・コード2.0とは、旧DX推進ガイドラインの内容が統合された、デジタルガバナンス・ コードの改訂版で、DXを推進するにあたり経営陣が抑えるべき事項や求められる対応などをまとめたものです。
「デジタルガバナンス・コード2.0」と「『DX推進指標』とそのガイダンス」には、DX推進において基本となる、概要やDXの流れなどが網羅されています。これらを参照すれば、「自社のDXはこのままでよいのか、次にどうするべきか?」という迷いは少なくなるでしょう。
参考:デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)(PDF)|経済産業省
参考:「DX推進指標」とそのガイダンス(PDF)|経済産業省
- 現時点におけるDX推進の進捗状況を確認する
DX推進指標を利用して、自社の現状がDXのどの段階にあるのかを把握します。
- DX推進における課題や問題点を把握する
現状を把握することで、現在の課題や問題点が明確になります。それに基づいて改善できる部分をリスト化します。
- 取り組みやすいDXの成功事例を把握する
国内外のDX推進の成功事例などを確認し、どのようにDXを進めているのかを参考にします。同じ業界や業種の事例にこだわる必要はありません。バックオフィス部門のDX推進などは、業界にかかわらず自社に取り入れやすい部分があります。
DXの成功事例は下記の記事でも紹介していますので、ご参照ください。
流通・小売業界の課題はDXで解決できる?成功ポイントや事例も紹介
製造業におけるDXの必要性―求められるアクションと推進事例を紹介
物流におけるDX―業界の課題と推進のポイント、取り組み事例などを紹介!
- 他社と比較し自社の現状把握などに生かす
DX推進指標で作成した自社の評価結果を他社と比較するのも、現状把握や今後の展開を検討する際に役立ちます。
IPA(情報処理推進機構)の「DX推進指標自己診断結果入力サイト」でDX推進指標の自己診断結果を提出すると、各企業の自己診断結果を集計して作成したベンチマークを入手できます。
参考: DX推進指標 自己診断結果入力サイト|IPA(情報処理推進機構)
DX推進指標をKPIとして活用するメリットと注意点
DX推進指標をKPIとしてDXを評価することには、次のようなメリットや注意点があります。
メリット
- 進捗状況について全社の共通認識ができる
DX推進指標により、自社のDXがいまどのような状態にあるのかを把握できます。それを全社で共有することで、DXの現状と次の課題についての共通認識を形成することが可能です。 - DXの進捗管理ができる
自社の現状を把握するだけでなく、DXのステップを理解して定期的に指標を確認することで、DXの進捗管理ができます。 - 課題と対策がわかる
自社のDXの現状を把握することで、「何ができていないか」といった現在の課題が明らかになります。そこから課題への対策、新しい施策を発見できます。
注意点
- 良い点数を取ることが目的ではない
DX推進指標は、DX推進に関しての現状や課題を把握し、次の行動につなげるためのものです。良い点数を取ることが目的ではなく、そこから見える課題を理解し改善のための行動を起こすことが大切です。 - ビジネスモデルを評価するものではない
DX推進指標は現状や課題を把握して次につなげるためのもので、現状のビジネスモデルを評価して終わりといったものではありません。いまのビジネスモデルに問題があるなら、それを改善していくことが大切です。 - DX推進そのものは目的ではない
DX推進指標を活用してスムーズにDXを推進させることは、ひとつの目標ではあります。しかし、DX推進の目的はDX推進そのものではなく、企業の改革により顧客に新しい価値を提供し、市場競争に打ち勝つことです。この前提を忘れないようにしましょう。
DX推進指標をKPIとして活用しDX推進を加速させよう
経済産業省が提供しているDX推進指標は、DXの進捗状況を客観的に評価するための指標であり、DXを推進していくための手引きでもあります。DX推進指標をKPIとして活用し、自社の現状を定期的に評価することで、DXの進捗状況を評価できる仕組みをつくることが可能です。それにより、DX推進を加速することもできます。思うようにDXが進んでいない企業においては、ぜひ積極的に活用してはいかがでしょうか。
なお、下記の記事でもDX推進指標の活用について触れています。ぜひご参照ください。